自宅でエネルギーを考える~実践編
前頁では「産業と家庭」「短期と長期」をそれぞれ分けて考えるというフレームワークを提唱した梅原氏。
以下、家庭で省エネするにあたり、具体的な考え方を挙げていただいた。
では、私たちが欲している「サービス内容」について、一つずつ見ていこうと思う。
1.明るさというサービス
「明るさ」を得るために、通常私たちは電球を使っている。
それ以前は石油ランプが使われていたが、石油の前は、もっと身近な油が使われていた。
日本では江戸時代に行燈や提灯に菜種油などが使われていたし、
庶民の間ではより安いイワシ油が使われていた。
読書や裁縫をするために手元だけを照らすものだが、日が暮れたら寝るという生活だったため、それでもさほど不便はなかったのかもしれない。
今はスイッチを付ければ、いつでもどこでも電球に灯りがともる。
その灯りはどこから来ているのか?
遠く中東から運ばれた石油を燃やして発電所で作られた電気が、南百キロも運ばれて家庭に届き、「明るさ」になる。
そんな大がかりなことをしなくても、もっと身近に安全に「明るさ」を手にいれることができるはずだ。
最も効率的に自然の明るさを得る方法は、太陽光を最大に取り入れるような家の設計だろう。
今の建築技術なら、少なくても日中は手元の明るさ以外は不要な程度の設計は十分可能である。
しかし家を建てる、あるいは引っ越すというのは一生に何度かの機会しかないので、
誰でも今すぐという訳にはいかないが、そのチャンスがある人はぜひ「採光」に注目して選んでほしい。
また江戸時代の人の灯りの使い方にもヒントがある。
現代人には日没とともに寝るという生活は難しいだろうが、必要な灯りを手元で得るという方法は有効的だ。
部屋全体の光度を半分に減らしても、手元を照らすことで、私たちの目には十分な灯りを得ることができる。
夜間は間接照明に切り替えても良いだろう。
我が家では天井のダウンライトは電球の数を半分に減らし、残した電球はLEDに変えた。
最初から全てをLEDに変える前に「減らす」余地が無いか見直してみると良いだろう。
夜間に明るい部屋で過ごすと、脳が覚醒して入眠しにくくなるとも言われている。
結果として省エネにもなるし、夜の安眠にもつながり一石二鳥だ。
2.温かさ、冷たさというサービス
これらは通常、暖房や冷房機器を使って冷温熱を作ることで得ている。
実は家庭部門のエネルギーの約6割がこの冷温熱である。
そのうち、暖房や給湯の熱が5割を占める。
シャワーや食器洗いで使うお湯はせいぜい40℃~50℃程度である。
この程度の低温熱であれば、家庭用太陽熱温水器で十分にまかなえ、最もシンプルな機器は20~30万円程で買える。
大がかりな電気を使って、家庭用の熱を作るというのは、環境的にもエネルギー効率的にもあまり優れているとは言えない。
むしろ身近な「太陽の熱」を活かすことが、大きな省エネにつながる。
最近は暖房もできるソーラーシステムが販売されている。
我が家は一軒家じゃないからという方には、ソーラーシステム付きの集合住宅をお勧めしたい。
東京都は今年から集合住宅向けのソーラーシステム設置補助を始める。
引っ越しをお考えの方にはぜひ注目して頂きたい。
また暖房の場合は断熱対策がとても重要だ。
これも住宅設計により、後の暖房エネルギー消費が大きく変わる。
新築なら太陽の熱を「暖」として取り入れるパッシブソーラー技術もある。
既築なら大がかりな断熱改修は難しくても、サッシを木枠からアルミに変える、
あるいは二重窓を設置するだけで、内部の熱を逃がしにくくして暖房効率を高めることが可能だ。
その上でさらに余裕がある人は、ペレットや薪ストーブも選択肢として検討してはいかがだろうか。
ペレットストーブの製品規格がまだ無く、燃料も灯油等に比べて高い、入手しにくいといった課題もまだある。
しかし地域の未利用材を使うことで森林資源を循環できれば、地域経済の活性化や景観生態系保全にもつながる。
話は少しそれるが、岩手県で被災した石村工業は工場を立て直し、ペレットストーブの製造を再開した。
こういった企業から購入することで、家庭のエネルギー自立を進めながら、被災地の復興に共に取り組むきっかけになるかもしれない。
一方で冷房は多くがエアコンに頼らざるを得ないのが現状だ。
新築の場合、地中熱を使った冷暖房技術を利用することもできる。
地中熱は年間を通じて15℃程度と一定なので、冬は温かく夏は冷たい熱を取り出すことができる。
しかし初期費用だけで300万円ほどかかるため、どこの家庭でも導入できるという段階にはなっていない。
そこで注目されるのが、最近話題の「節電」や「クールビズ」対策である。
冷房は特に起動時のエネルギー消費が大きい。
家に帰ったらまずはじめに換気してこもった熱を外に出してから冷房をつけるだけでも効果的に冷房を開始できる。
しかも室外機が温まっていると電力負荷が大きくなるので、すだれ等で室外機を日陰に置いてあげるだけで、電力消費を抑えることができる。
また暑い日は昼前に温度設定を下げて室内を冷やしておき、午後は放射冷却を利用しながら、
ピーク時(通常2時~4時)には、28度~29度設定で過ごすことで、
ピーク時でも少し快適に過ごせるかもしれない。
今年からSuper Cool Bizの提案が始まったが、
昔から日本人は、打ち水をしたり、氷を食べて「涼」を取るという工夫をしていた。
もう一度、今風に「涼」を取るアイデアを家庭内や社内で持ち寄るのも楽しいだろう。
3.速さというサービス
次に「速さ」。
「速さ」は車やバス、電車、飛行機などの移動手段を使っている。
速く遠くに移動できるほど、多くのエネルギーが必要だ。
だから飛行機が最もエネルギーを使う。
次が自動車やバス。これらはガソリンやLPGやCNGが使われている。
日本では電車は電気で動かしている。自動車よりは電車の方がCO2原単位は低いが、電気を大量に使うことに変わりない。
最近は自転車通勤をする人が増えているようだ。
自分だけ自転車に乗っても電車は動いているから、省エネにはならない考える人もいるかもしれないが、
実際にラッシュ時に大勢乗れば冷暖房のエネルギーが余計にかかる。
乗る人が多ければ本数を減らすワケにもいかない。
ちょっと極端に聞こえるかもしれないが、実際には一人一人の行動の蓄積がエネルギー消費量を決めていくのだ。
自転車が辛い人は、電動自転車はどうだろう?
私の知人は夫婦で電動自転車を購入したが、都内であれば大体どこでも自転車で移動できると言っていた。
先日も、自転車で浅草まで買い物に行ってきたと聞いた。
ハイブリッド車や電気自動車も良いが、どんな目的でどの程度の距離までなら自力で移動できるのか、
色々試して自分なりの「移動プロトコル」を考えてみるのも良いだろう。
4.動かすというサービス
そして最後は「動力」。
テレビや冷蔵庫や電子レンジ、掃除機に洗濯機などは電気を使う機器である。
この中で常に使っているのが「冷蔵庫」だ。
冷蔵庫で実際どれぐらい電気が使われているのかを知っている人は少ないと思うが、
常に外気より20~30℃近く低い温度を庫内で保つワケだから、たくさんの電気が必要なことが分かる。
中身をたくさん詰め込まない、ドアの開閉回数を減らす、周囲の風通しをよくするなど、
利用方法の工夫で効率を高めることもできる。
冷蔵庫の扉にプリントを貼るのをやめ、前後左右に5センチ以上の空間を空けたり上に直接物を置かないだけでも、冷蔵庫の効率は上がると言われている。
次にテレビだが、基本はピーク時に見るのを控えるのが良いのではないだろうか。
私の父は、自動車用の中古バッテリーを買ってきて、テレビにつないでいる。
普段充電しておけば、3時間ぐらいはバッテリーでテレビが見られるという。
この程度の技術なら、電気に詳しい人ならすぐにも実行できそうだ。
ただし配線やバッテリーが転がることになり、インテリア的にはあまり素敵とは言い難い。途上国ではソーラーパネルで発電するバッテリーパークを村内に作り、
住民が家庭用バッテリーを持ってきてそこで充電し、持ち帰り電源として使っている地域もたくさんある。
送電線が無いためにそういう選択になったという面もあるが、送電線があっても使える技術だ。
地域が共同で使えるバッテリー用の「ソーラーステーション」なら、案外簡単に作れるのではないだろうか。
電力の需要ピーク時を外すのは大切な視点だ。
夜間電力を安くする契約形態もあるので共働きで日中は電気を使わない方などは検討してみては。
掃除や洗濯は安い夜間電力で行うというのが賢い主婦の鉄則にもなっているが、
その他の様々な機器も待機電力ゼロが当然の習慣になっている人も多いだろう。
個別の機器の効率的な利用方法も大事だが、電力消費の大きい機器の使い方をもう一度見直してみると、
見逃していた省エネの余地が見つかるかもしれない。
こうして私たちの暮らしに必要な一つ一つのエネルギーサービスを見てみると、
自分達の暮らしの中で、どのようなエネルギーがどれぐらい必要なのかが、なんとなく見えてくる。
その次に地域ごとにどのようなエネルギーが利用できるかを考えていく。
日本列島は南北に延びているため地域によって多様な気候と自然が広がっている。
必然的に、最適な自然エネルギーにも地域差がある。
たとえば、温泉が豊富な地域では、温泉熱を使った熱利用や、地熱発電が実用的な選択かもしれない。
ある地域は、日射時間が長いので太陽光発電やソーラーシステムを各家庭に設置するのが高率的かもしれない。
西日本の晴天の多いエリアなどは太陽光に適しているだろう。
またある地域では、中山間地と住宅地が隣接しているかもしれない。
地域で集約的に木材端材や間伐材が収集できるインフラが整備されれば、木質バイオマスを利用した地域熱や発電が可能になろう。
自然エネルギーは地域に分散しており、地域によって潜在量も経済性も異なる場合が多い。
まずは一人一人がエネルギーを何から得るかを考えることで、
地域で最適な自然エネルギーが選択されるようになれば、おのずと日本全体の省エネにもなり、
化石燃料や原発に頼らないエネルギーの在り方を、現実的な計画として描くことが可能になるのではないだろうか。
日本は地下資源に乏しいが、地熱や水力、バイオマスなどの自然エネルギーがとても豊富にある。
エネルギーシフトに関心のある人も多くなっているが、私たちが暮らしの中でどうエネルギーと付き合っていくのかを考えることが、今私たちが立つべきスタート地点だと思う。
1/2
♪♪ 本日の先生 ♪♪
梅原由美子(うめはらゆみこ)氏
Value Frontier株式会社取締役
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士(国際産業連関エネルギーバランスモデル開発、温暖化政策研究)。日本アイ・ビー・エム株式会社、NPO法人環境エネルギー政策研究所を経て2006年にValueFrontier設立に参加。現在は企業における持続的な環境経営のための環境マネッジメントや環境マーケティング支援、環境人材育成サービス開発を行っている。また国際協力や国内地域振興のための排出権事業形成コンサルティングや、企業・市民・NGO等による参加型環境プロジェクト開発を手がける。








































